東京高等裁判所 平成11年(行コ)218号 判決 2000年5月30日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおり訂正、削除するほか、原判決の事実の「第二事案の概要」に記載のとおりであるので、これを引用する。
1 原判決一〇頁六行目、一六頁六行目にいずれも「債権者情報」とあるのを「事業活動情報」と改める。
2 原判決一四頁一行目に「、① 住所欄、② 会社名欄、③」とあるのを削除する。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人らの請求は理由があると判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に認定説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一八頁九行目の「条例一一条二、三号」から一一行目末尾の「いうことができる。」までを次のとおり改める。
「条例一一条二号(個人情報)に該当すること又は同条三号(事業活動情報)のうちの法人の不利益情報に該当することを明示したにとどまる。
しかして、本件理由記載の程度に関し、控訴人は、(1)本件非公開部分のうち「請求書」の「代表者名」欄について、①その一部には法人の営業所長(従業員)の氏名が記載されているが、この情報は、個人情報であるから、条例一一条二号に該当し、公開することができない、②その余には個人事業主又は法人の代表者の氏名が記載されているが、この情報は、当該個人事業主又は法人のタクシーの利用状況等を推認させる事業活動情報であるから、条例一一条三号に該当し、公開することができない、③そして、右の②の事業活動情報と分離した上、①の「請求書」の「代表者名」欄に法人の営業所長の氏名が記載されている個人情報のみを特定し、それが条例一一条二号に該当することを本件通知書に記載すると、その記載とその他の情報とを併せることにより、結局、右の個人情報を公開することになるから、本件通知書にその①の個人情報と②の事業活動情報とを分離して記載することもできない、(2)その余の本件非公開部分(「請求書」の「代表者名」欄以外の部分)は、すべて条例一一条三号に該当し公開することができない、と主張するのである。
2 原判決一九頁二行目の「公文書の」とある前に次のとおり加える。
「 条例八条四項は、「実施機関は、第一項の規定により公開しない旨の決定をしたときは、その理由を第二項の書面に記載しなければならない。」と規定しているところ、条例が右のように公文書の非公開決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、非公開理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによってその不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである(「公文書公開の手引(改訂版)」(乙五)参照)。このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、」
3 原判決二〇頁一行目から二一頁一行目までを次のとおり改める。
「三 条例一一条二号(個人情報)について
1 被控訴人らが主張するように、本件通知書に本件文書のどの文書のどの「非公開とされた部分」が条例一一条二号に該当するのか記載されていないことは、本件通知書の記載自体から明らかである(甲四、五)。
2 控訴人は、本件非公開部分のうち「請求書」の「代表者名」欄が条例一一条二号に該当すると主張する。
そして、控訴人がいうように、条例が一一条二号の「個人に関する情報」から「事業を営む個人の当該事業に関する情報」を除き、これを同条三号の対象としていることは、その文理上明白である。また、本件公開請求の対象となった文書は、「タクシー代、ハイヤー代の支出に関する文書」であるから、本件非公開部分中、①「支出負担行為支出伝票」の「相手方の住所 氏名」欄、「金融機関名 口座名義人」欄、「相手方コード」欄、②「請求書」の「住所 会社名 代表者名」欄、③「借上車使用実績簿」の「使用事業者名」欄に個人の氏名が記載されることがあるが、右各欄に記載される個人の氏名は、右②「請求書」の「代表者名」欄を除き、「事業を営む個人」の情報であるから、条例一一条三号に該当するかどうかが問題となり、かつ、右②の「請求書」の「代表者名」欄に法人の営業所長の氏名が記載されているものについては個人情報として条例一一条二号に該当するかどうかが問題となり、同欄に個人事業主又は法人の代表者の氏名が記載されているものについては事業活動情報として条例一一条三号に該当するかどうかが問題となりそうである。
しかし、右のような論理自体相当困難なものであって、県民がたやすく理解することができるようなものではない上、控訴人は、前記一後段の(1)、③に記載した考え(その考えにさほどの根拠を認めることはできない。)に基づき、右②の「請求書」の「代表者名」欄の記載がすべて個人情報として条例一一条二号に該当するか又は事業活動情報として条例一一条三号に該当するかのような理由を記載している。換言すると、本件文書のうちのどの文書が個人情報として条例一一条二号に該当するかを特定していない(原審証人Aの証言によれば、本件文書四五通のうちの一〇通の文書ということになるが、たとえ右証言のとおりであったとしても、本件文書のうちのどの一〇通の文書であるかを特定することはできない。)。このようにみてくると、右の論理ないし本件理由記載は、前記の理由付記制度の趣旨(とりわけ非公開の理由を公開請求者に知らせることによってその不服申立てに便宜を与える趣旨)に沿うものということはできないし、非公開事由のどれにどうして該当するのかを了知させるものということもできないから、結局、本件通知書は、条例八条四項の理由付記を欠くものというほかない。
四 条例一一条三号(事業活動情報)について
1 本件通知書には、「法人に関する情報であって、公開することにより、当該法人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えると認められる情報が記録されているため(第3号該当)」と記載されているのみであって、本件非公開部分を「公開することにより、」具体的にいかなる理由で「当該法人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与える」のか不明確であり、条例八条四項の要求する理由付記としては充分ではないといわなければならない。」
4 原判決二一頁二行目冒頭の「1」を「2」と、二二頁六行目冒頭の「2」を「3」と、二三頁四行目冒頭の「3」を「4」とそれぞれ改める。
5 原判決二三頁五行目の「明らかである」の次に次の文章を加える。
「(ちなみに、原審証人Aは、平成九年度のモノレール課の文書の公開請求の件数は本件を含めて三、四件であったが、対象文書は相当多かったと証言するにとどまる。)」
二 結論
よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 揖斐潔)
裁判官 高野輝久は、転補のため署名押印することができない。